脳死肝移植の現状と展望 【日本消化器病学会誌2011年5月号から】
千葉県木更津市 はやさかクリニック 肝臓専門医 早坂章です。
日本消化器病学会誌 2011年5月号の「今月のテーマ」は「これからの脳死移植」です。 巻頭に順天堂大学 川崎誠治教授らの総説、「脳死肝移植の現状と展望」が掲載されておりました。
ここまで移植医療もたどりついたのかと、感慨深い総説です。以下、要旨です。
要旨: わが国の脳死肝移植は欧米に大幅に遅れをとり,1997年の臓器移植法施行より2009年までの約12年間に67例しか脳死肝移植は施行されなかった.しかしながら,2010年より施行された改正臓器移植法により本人の意思確認がなくても家族の同意による臓器摘出が可能となりその数は急速に増加し,2010年8月から2011年2月の7カ月間に39例の脳死肝移植が施行された.成績も海外の移植成績と遜色なく,脳死肝移植が終末期肝疾患に対する有効な治療法であることが改めて示された.今後はより細かな脳死移植選択基準の設定,臓器輸送時間の短縮のため同一地域内での臓器摘出ならびに移植実施,臓器移植に関わる救急医療の整備などが課題である.
肝臓移植は1963年 米国の Dr. Starzl が世界で初めて行ないました。
患者さんに手術を受けていただくまでには、Dr. Starzl の超人的な研究があったことは彼の著書や講演で知りました。その研究については賛否両論が合ったようです。
私は肝臓移植には医学生のころから、大変興味がありました。
以下、いくつかの思い出です。
私は1982年医学部卒業です。 研修医の頃、米国ではすでに多数の肝臓移植が行われており、その様子をStarzl先生一派の本や英国のキングス・カレッジ派の肝臓移植の本を読み、興奮していました。
特にキングス・カレッジの先生の本には巻末に移植後にお元気になって、おいしそうにお酒をのんでいる患者さんの写真(たしかPSCかウィルソン病の患者さんだったと思います)がいくつものっており、いろいろな思いで感動していました。
その後、実は千葉大学の中山恒明先生もStarzl先生とほぼ同時期に、日本で肝臓移植を試みていたことを知り、中山先生の凄さを再認識致しました。
更に、米国留学中の1986年にはフィラデルフィアで真夜中の肝移植に何度か立会い、手術室でお悪い肝臓が患者さんからとり出されるのを実際に眼にしたときは、不思議な感覚でした。
また、移植後の移植チームカンファレンスに参加させて頂く機会がありました。
当時は臓器保存液、”ウィスコンシンソリューション” ができたばかりで、予定手術は難しく、提供臓器が届くと時間に関係なく、真夜中でも手術が始まりました。
そういえば、当時の藤沢薬品の免疫抑制剤もこの頃、米国肝臓病学会で話題になっていました。
帰国後、日本では生体部分肝移植がはじまり、日本流の脳死移植を待たない工夫に感心しました。
今では、臓器移植法の施行により、総説の要旨にあるように、2010年8月から2011年2月の7ヶ月間に39例の脳死肝移植が行われたそうです。
未だ、移植医療にはいろいろな意見がありますが、確実に治療法の選択肢の一つになってきたようです。
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